オタクの遊び場

漫画を買う時、本屋で一番綺麗なのを買う奴がいる。
奴そこ正にオタクである。
オタクは３冊買うと言うが、そうでなければオタクじゃないわけではないし、もちろん全てがそうではない。
多くの漫画を愛する人と、特定の漫画を愛する人がいるわけで、予算に限りがあればそこに差がでるのは当然だ。
だがオタクなら、『漫画のページを開けた状態で裏返しにして置かない』とか、『お菓子をつまみながら漫画を読まない』なんてことは確実にやっているだろう。
手をしっかり洗った後、コッソリ覗きこむように読むのが、できるオタクである。
お菓子を食べながら漫画を読みたいなら、当然箸でつまむのが常識だ。
買う漫画は、発売当日に『第１刷発行』をゲットする。
予約はしてはいけない。
予約をしてしまっては、一番綺麗なのを選べない場合があるからだ。
学校が終われば、なるべく大きな書店へ自転車をとばす。
そして積み上げられてる本を横から見て、綺麗なのを抜きとるのだ。
これは漫画オタクの話であるが、他のオタクも似たようなことは多々ある。
切手を集めていたことがあるが、切手シートの枠に『大蔵省』と書かれている部分がある。
これが一緒についている切手が、マニアの間では価値を持った。
自動販売機で発売された切手は、横のギザギザが無く真っ直ぐで、それもまた好まれた。
裏返しにして光を当てた時、ノリの部分に指紋が付いているのが見えると、それだけで持っている価値を失う。
日本人の美意識の中にある、これは『こだわり』なのかもしれない。
そんなことにこだわるオタクも、いつしかオタクを卒業する。
私もそれを経験したことがある漢だ。
卒業した途端に、こだわりが一気になくなる。
「どうして俺は、そんなにこだわっていたのか？読めればいいじゃん！手紙出したら俺のもんじゃないし！」
今も私の手元に、綺麗にカバーされた本がある。
タッセンという切手保護用のフイルムシートに入れられた切手を見ると、どれだけ大切に扱っていたかが分かる。
でも今見ると、必死すぎる感じに笑みがこぼれてしまう。
まったくバカバカしいと思うが、これがオタクなのだ。
マニアの気持ちを知る私は、日本人の中の日本人こそがそう呼ばれるのかもしれないと、なんとなくそう思った。